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  たか@マルチの夏休みの課題、 創作です。

 

星空のメッセージ


 星吉は空を見上げた。汚れた大気に冒されない澄んだ夜空には、数え切れないほどの星々が輝いていた。
 ここは、とある山の上。流星群が出現すると聞き、友人達と一緒に、空気の澄んでいて光害の心配もない山に登って見ることにしたのだ。
「今は、わざわざここまでしないと見られないんだよなぁ」
 星吉はぼやいた。
「星が見られないってことだけじゃないよなぁ……その時その時は小さいことでも、どんどんどんどん積み重なって、今じゃ、環境問題なんて、数え切れない よ……」
 それが自分達人間がやったことだと考えると、悔しいようなさみしいような気分になった。
「おい! 星吉! ラジオ!」
 テントの中で、突然友達が叫んだ。星吉は慌ててテントに頭を突っ込み、ラジオに耳を傾けた。
「――繰り返します。日本列島全域を覆う大型の低気圧が突然発生し、急速に勢力を増しています。一晩中、曇りや雨の天気が続くでしょう――」
「ええ!? そんなぁ……」
「昼間の天気予報で言ってたのと、全然違うよ」
「突然発生って、そんなの有りぃ?」
 口々に言い合うが、外を見ると、さっきまであれほど見えていた星空が、確かに隠れ始めていた。
「これじゃ、流星群は見られないよ。残念だけど、帰ろう……」
 星吉たちは、荷物をまとめ始めた。それが終わり、テントをたたむため外に出ようとした時、すでに外は大雨だった。
「い、いつの間に降ってたんだ?」
「まさか、こんな大雨になるなんて……」
「暗い山道だし、こんな天気じゃ、帰るに帰れないよ」
 仕方がない。星吉たちは、今夜はこの山に泊まることにした。
「まったく、本当についてないよな。流星群が見られないどころか、帰ることも出来ないなんて」
「仕方ないよ。もう寝よう」
 しかし彼らは、一度まとめた荷物を、もう一度開かなくてはならなかった。
「ほんと、ついてないよな……」
 誰かが呟いて、後は、なんだかみんな黙ってしまった。
 だが、しばらくして、沈黙を破るように、友人の一人が言い出した。
「さっきのラジオで、低気圧が『突然』現れたって言ってたよな?」
「うん。昼間テレビで見た時は、そんなの、ちっとも無かった」
 みんな、またポツリポツリと話し始めた。
「こんな事、初めてだよ」
 常識ではあり得ないこの事実を、皆、まだ受け入れられないようだ。
 だが、言い合っているうちに、だんだん眠くなってきた。星吉は、ぼぉっとする頭の中で、自分達の住む星を自分達がだめにしようとしていることを、思い返 していた。
 そして……。
 星吉はテントの外にいた。雨が降っていない。思わず空を見上げると、雲もなく無数の星々が輝いていた。
「そんな! どうして!?」
 星吉は目をごしごしこすった。しかし星空は隠れることはなかった。
(今度は、いつの間にか晴れてるなんて。そうだ。こんなにおかしいことなんだから、きっとラジオでやるはずだ)
 星吉がラジオを取ろうとテントの方を振り返った時、まばゆい光が空を横切った。
「あっ。流星!?」
 すると、ものすごい音と共に、その光が星吉の近くに落ちた。
「ああ……落ちた……」
 星吉はテントに飛び込んだが、友達を皆眠ったままで、清吉がいくら揺すっても誰一人目を覚まさない。一体どうしたというのだろう。怖かったが、星吉は恐 る恐る、流星らしき光が落ちた辺りに近付いていった。
 そこには、銀色の、円盤のような形をした機械があった。
「まさか……これって、宇宙船!?」
 星吉は足がふるえだした。すると、中から二本足で立った猫のような生き物が出てきた。
「ね、猫!?」
 その生き物は星吉の前に立ち、笑いかけた。
「良く来てくれたね、星吉君」
「え!?」
 どうして僕の名前を知ってるんだろう。なんで猫がしゃべれるんだ?星吉の頭の中はめちゃくちゃだ。
「驚いたようだね」
 猫はまたしゃべった。
こいつは一体何をするつもりなんだろう。しかし、言葉が出てこない。
「君に見て欲しいものがある。この機械に乗って」
 まるでその言葉に操られるかのように、星吉はその機械に乗った。すると、中にあった大きなスクリーンに映像が映し出された。それは、真っ黒な汚らしい星 だった。
「なんだと思う?」
 その生き物は、星吉に尋ねた。星吉はとまどった。
「ま、まさか地球の未来?」
 その生き物はしばらく黙っていたが、やがて静かに告げた。
「その通りだ。君たち人間がだめにしてしまった地球だ。この、汚れたヘドロの海。地表を覆うスモッグ。そして、砂漠化した陸地。これは、みな人間がやった んだ……」
 星吉の心の中は、絶望でいっぱいになった。
 やっぱり、人間の手で、この地球は死の星になってしまうのか……。
「これを見て何をするかは君次第だけど、ぼくはこれを君に見せたかった」
「ちょっと待って! どうしてこれを見せるのが僕なの!? 他の人じゃだめなの!?」
「……」
生き物は黙っている。
「お願い! 教えて! 何故この星の未来を知ってるの!?何故僕にそれを教えたの!?」
「……君は、人間が地球環境を破壊し続けていることを、とても思い悩んでいただろう」
 生き物はやっと口を開いた。
「でもそんな人、いっぱいいるじゃないか」
「確かにそうだ。だけど君は、自分たち人間がした事に大きな責任を感じている。その大きさが大事なんだ。『もっとリサイクルをしよう』とか言っていても、 本当に真剣に考えて責任を持てる人は、君が考えているよりも少ないんだ。だから、少しでも地球が助かる可能性を増やすために、地球中の君のような人が必要 なんだ。君たちは地球にとっての希望なんだ」
猫のような謎の生き物は、その言葉を最後に消えていった。気が付くと、スクリーンも機械も消え、星吉は外に立ちつくしていた。
 星吉は、ぼう然として、しばらくそこを動けなかった。だが、星吉の脳裏には、あの真っ黒な地球の姿が焼きついて離れなかった。
「星吉!」
 突然、声を掛けられて、星吉は我に返った。
「途中でいきなり雲が消えていって、天気が良くなったからおまえを起こしたのに、さっぱり起きなかったんだぜ」
「そうそう。それでラジオをつけたら、さっき突然発生した低気圧が、今度は突然消えちゃったんだもんな。まったく今夜は不思議なことばっかりだよ」
 気が付くと、星吉はテントの中に横になり、友達に揺り起こされていた。
「地球が……」
「え?」
「地球が危ない!」
 まだ少しぼんやりしながらも、星吉は叫んだ。
「何言ってるんだよ。変な夢、見たんだな?」
 友達は、口々に言う。だが、星吉は叫ばずにいられなかった。
「夢じゃない!今ならまだ間に合うんだ!」


 ――時は流れ、いま星吉は、地球の悲痛な叫びを人々に訴え続けている。全く違う場所で、全く違う時に、あの〈流星〉に出会った仲間たちと。
 そして、星吉は毎晩、時には雲にかすんで見えないこともある、もう一つの仲間に語りかける。〈地球を救う警告〉という素晴らしい贈り物をくれたあの星空 に――

おわり